中学校の部  

  鴻ノ森を散策して
       
         高知市立旭中学校
            三年 マドン・ティリー
 
 草木が徐々に芽を膨らませ、今か今かと春を待ちわびる。冬鳥たちは渡りに向け、豪快に葉を散らしながら餌を食べに走る。少し暖かくなると、小さな花や虫が目につき始め、見上げるときれいに生え並んだ桜が満開になっている。そこへ桜だけが主役じゃないよと言うようにぐっと菜の花が茎を伸ばし、甘い香りの花で蜜蜂を誘う。これが鴻ノ森の春だ。
 高知の夏の到来は早い。いつの間にかツバメなどの夏鳥が来ていて、私達に可愛い声で帰ってきたよ、と告げる。そして、新緑の元気な葉で生い茂った森で野鳥たちの音楽会が響き渡るようになる。そんな野鳥たちの中でもとりわけ魅力的なのが、声はすれどもその美しい姿は見えぬ、と言われるキビタキ。幸運なことに一度、その姿を目の当たりにした。その時は宝石が飛んでいったのを見たかのような錯覚に陥った。しばらく、色彩の華やかさに圧倒されていたように覚えている。
 真夏に突入すると、猛烈に暑く登るのも少々辛くなってくる。それでもアザミなどは暑くても負けず、踏まれても負けずに成長し続ける。そんな強くたくましい姿を見るといつも、負けていられないぞと活力をもらえる。
 セミの大合唱でにぎわっていた夏が過ぎると秋になる。森が静かになるので寂しくも感じるが、代わりに秋の恵みである栗やあけびなどが甘く実るので、それで心身が満たされる。やがて紅葉した葉も散り、生き物たちも冬眠に入り、じきに寒い冬へ移ってゆく・・・。
 私は多様な生き物たちの生命力であふれるこんな鴻ノ森が大好きだ。よくこのように動植物の生きざまや季節の移り変わりなど、自然の微妙な変化を観察させてもらっている。身近に自然豊かなところがある場所で暮らせるのは本当に幸せだ。おいしい空気を吸って気分を晴らせる、自分や家族にとっても、かけがえのない場所である鴻ノ森。行き続けるうちに少し気づくこともあった。
 私は野鳥観察が特に大好きで、その観察中に気づいたが、ここには外来種のガビチョウなどが生息している。日本の野鳥らしくない声が森に響いていることに違和感を持つと同時に、森の生態系の未来が心配になる。これ以上に森の本来の姿が変わらないことを願う。
 また、近頃あちこちで山や畑を利用して、太陽光パネルなどを設置しているのを見かける。その度に鴻ノ森が脳裏に浮かぶ。もちろん再生可能エネルギーを普及させるのも大切かもしれない。でも、その前に一度立ち止まって、皆でもう少しじっくりと身近な自然の在り方や尊さについて、真剣に考え直す機会があれば、と思う。やはり、太古から私達人間は自然の恩恵で生かされているということを、忘れずいつまでもしっかり感謝し続けたい。今までよりも一層、自然が大切にされ、私達の自然を見つめる目がもっと優しくなっていけるように、そして次の世代へ大切な自然をきれいなままで手渡せるように、これからも努力していきたい。